事故を装って保険会社から保険金を騙し取るのが保険金詐欺です。 通常、保険金詐欺はあまり価値のない自分の所有物に高額な保険をかけ、事故に見せかけてそれを壊してしまい保険金を得るというものです。 つまり、保険金から自分の所有物の価値を引いたものがもうけになるので、なるべく安いものに高い保険をかけるのです。 ですから値段のよくわからない美術品などはよく保険金詐欺の対象となり、保険会社の引き受けは慎重になります。 以下は実際に聞いた保険金詐欺や業界の裏話です。
ある大手保険会社が高額な絵画の保険を引き受けた直後に鑑定書に疑問を持ち、保険の引き受けを取り消しました。 一度引き受けた場合なかなか取り消しはできないのですが、 この会社は社内に法律専門の部署を持つ会社で「錯誤による契約」という法律論を駆使してなんとか保険契約を解消しました。 その直後に別の引き受けの甘い中堅会社がこの絵画の保険を引き受けたのですが、まもなくその絵画は火災で燃えてしまいました。 燃えてしまえば本物か偽物かの鑑定はできないので、その会社は契約どおりの保険金を支払う羽目になりました。
消防庁の統計では火災の原因の一番は放火です。 従って保険会社が保険料を計算するときに使う統計にも放火による火災の保険金が当然含まれています。 従って、火災保険料には放火による危険が織り込まれているわけですが、 この中には自分で自分の家に火をつける保険金詐欺による保険金も含まれているのです。 詐欺が発覚した場合は保険金は支払われないので当然統計にも含まれませんが、 うまく詐欺が成功した場合は詐欺だったことは知られないので統計に含まれてしまいます。
では、保険金詐欺がうまく成功する場合は多いのでしょうか。 現在では詐欺の調査を専門とするプロもいてなかなか火災保険で詐欺をおこなうのは困難と思われますが、 ちょと前までは田舎に行けば何事にもみなおおらかなので以下のようなこともありました。
スキー場のある田舎の民宿で聞いた話ですが、不況でスキー客が減り民宿の倒産が相次いだときに破産しそうな民宿が火事で全焼しました。 村は保険金詐欺の噂でもちきりで所有者は警察の取り調べを受けました。 しかし村の消防署が原因不明という結論を出したため警察の取調べも中止され無事保険金が支払われました。 しばらくしてから小学校の同窓会があり民宿の主人が仲のよかった消防署長にそっと「あの火事はほんとうに原因不明なのか」と聞いたら 消防署長はそれには答えず、ただ「あいつは俺たちの同級生じゃないか」とだけ言ったそうです。 小さな村の濃密な人間関係の中ではこのようなことはありがちだと思います。
これも民宿で聞いた話しですが、スキーに来ていた女子学生の荷物が盗まれてしまいました。 民宿ではこのようなことに備えて施設賠償責任保険に入っており、 民宿が被害者に賠償金を支払った場合に保険金が支払われることになっていましたから、 主人はすぐに女子学生たちに盗まれた洋服の金額を支払ったのです。 ところが犯人は現金だけを持ち去ってその他のものは別の場所から発見されたので、 発見された衣類はすぐに持ち主に戻ったのです。 しかしそれらの衣類は先に主人が支払った金額とはかけ離れた安物だったそうです。
それでも他人が触ったものなどもう着ることはできないと彼女たちが主張するので、主人はお金の回収はあきらめました。 しかし彼女たちは自分たちの衣類は持って帰ると言い出したのです。 「他人が触れたものなど着られない」といったものを何で持って帰るのかと聞くと「自分で処分するから」と答えたそうです。 この後どうなったかは忘れましたが、保険金が支払われた場合でもその支払いの対象となったものがあればその所有権は保険会社に移転します。 なかなかしたたかな女子学生ですが、彼女たちがこの先妻になり母になると思うと日本の子供たちの将来が思いやられます。
保険会社では保険を引き受けるに際して「引受規定」という内規を持っていますが、 保険自由化以前は保険の多くは独占禁止法適用除外だったので、この「引受規定」は全社共通でした。 巨大な建物や工場、船舶、航空機などリスクが大きいものは共同保険といって複数の会社で引き受けるため、 引受の料率や条件などを同じにしておかないと具合が悪かったのです。 ところが共同行為をしていながら競争もあり、引受規定の裏をかいて抜け駆けするような会社もありました。
某有名タレントが所有するクルーザー「光○丸」は小型船舶免許で運転できるようなモーターボート(小型船舶)ではなく、 外洋を航海でき、その運行には船長や機関士などの船舶免許を持つ船員を必要とする本物の客船です。 引受規定では船舶は海上保険で引き受けることになっていますが、 ある大手保険会社がこの船を動産総合保険で引き受けて業界の非難の的となりました。 動産総合保険は家財や衣料品などを対象とした保険で保険料が安いのですが、 この料率で本格的な客船である「光○丸」を引き受けてしまったのです。
その会社の引受根拠は「光○丸」の船体がFRP(強化プラスチック)でできていたからです。
本来、動産総合保険は家財や身の回り品などを引き受けるための保険ですが、
持ち運び可能なプラスチック製の小さなボートは家財とみなして引受可能としていたのです。
そのため動産総合保険の引受規定では「船体がFRPでできたボートは引受可能」となっていたのですが、
某社の社員は外洋航行可能な船舶である「光○丸」を「船体がFRPでできたボート」として動産総合保険で引き受けたわけです。
「光○丸」は手入れも行き届いているだろうし、どうみてもリスクの少ない優良物件です。
したがって多くの会社が引き受けたがるでしょうから低い保険料で他社を出し抜いたわけです。
優秀な営業マンの中には引受規定を隅から隅まで読み込んで、引受規定の裏をかくようなことをする人もいます。
これはコンピュータのセキュリティの穴を探して侵入してくるハッカーのようなものですが、
ちゃんとアンダーライティングができたうえでの話しなら、規定には違反していないわけですから引き受け可能です
(業界の秩序を乱したとの批判は免れませんが、そもそもその秩序が独禁法上問題ですから)。
いずれにしてもこれは保険自由化以前のことで、自由化後は各社が自由に料率を決められるようになったのですが、
その後「光○丸」は火災を起こして沈没してしまいました。
当然全損となったはずですが、いったいどのような保険から支払われたのでしょう。
保険会社など金融機関の監督は金融庁が行います。 監督官庁は保険商品の認可、販売方法、不祥事の処分などさまざまな権限をもっていますから、 当然、保険会社はなんとか監督者に取り入って審査や処分を甘くしてもらおうと考えます。 現在では許認可権を持つ官庁と企業の癒着は大問題になるので、会社側もその対策には大変気を使っています。 一方監督する側の金融庁も非常に気をつかっており、保険会社に検査に入る場合でも検査官は自分達が飲む お茶まで持参しますし、たまに一緒に食事をしても割勘で、民間会社の人間との飲み会も上司の許可が 必要だったりします。 しかし私が就職した頃は大蔵省接待は当たり前で、保険に限らず銀行なども大蔵省担当者(MOF担といいました)は 常に大蔵省に出入りして情報を集めていました。この人達は青天井の接待費を持っていて お役人を接待するのも仕事の内でした。有名なノーパンシャブシャブ事件で自殺者が出たりして、 社会問題になってからは業界との付き合いは一切禁止となりましたが、昔は保険業界も大蔵省との間で いろいろな行事がありました。それで監督が甘くなっていたかというと必ずしもそんなことはなかったのですが、 大蔵省を恐れていたのは事実で天下りなども多数ありました。 その意味では接待をしなくなった現在のほうが金融庁に対してはっきり物を言うようになったと思いますし、 金融庁も処分や指導をする際にその根拠を明確に示すようになりました。
昔は損害保険全社と大蔵省で毎年ボーリング大会をやっていて、優勝者とブービー(最下位の1つ上)で 幹事をやることになっていました。ボーリング大会が終わり表彰式が済むと各社がお役人を連れて二次会に 行くのですが、大手会社が幹部を連れていってしまうので、中小会社は担当者しか接待できません。 (担当者の接待はじつは大切で、ここを通さないとそもそも案件が上にいかないのですが) どうしても幹部と懇意になりたい中小会社の役員が幹事になれば保険課長と接触できると思い、 ボーリングのうまい課長に優勝を命じたのです。その課長は若手と女子社員を集めて首尾よく 優勝することができ、保険課長を接待することに成功して大変ほめられました。 そして翌年同じメンバーで臨み2回連続で優勝することができました。 すると課長は役員に呼ばれ「2度も優勝してくるやつがあるか」と怒られました。 幹事になるとスケジュール作成、場所確保、役所や全社との連絡など大変な負担がかかったのです。
ある中堅損保会社の裏は土手になっていて花見の名所でした。毎年この会社のやり手課長が大蔵省の役人を招いて 花見会をやっていたのですが、この準備が大変でした。昔は会社ぐるみで花見をやったりすること も多く、その場所取りは新入社員の仕事でした。花見の場所にシートを敷きまわりにロープを張って 場所取りをするのです。そして酒や食べ物の用意をして夕方に部署単位で出かけるのです。 その会社はこの花見に大蔵省の担当官を招待していたので、社内行事の花見よりはるかに大掛かりな準備となり、 粗相がないようロープを張るだけではなく、そこに社員が陣取って夜まで場所を確保していました。 それだけではありません、担当の課長は二次会や雨に備えて近くのホテルに部屋まで用意していたのです。 この当時は会社の施設を使って担当官を接待するのはあたりまえで、個人的に仲良くなっていれば、 認可申請のときにも不正という意味ではなく、いろいろ便宜を図ってくれました。 例えば認可申請時にデータが不十分だったり、合理的な説明ができなかったりした場合に いろいろとアドバイスをくれたりしたのです。 特に大勢の優秀な社員を揃えている大手社に比べて、中小会社の場合は担当者の人数も使える予算も 限られているため、なかなか十分な資料がそろわなかったり、合理的な説明ができなかったりするので、 担当官のアドバイスは大変ありがたかったのです。 それでも十分な資料が作れず、担当官からは「大手社はこちらが認可したくないものでも、認可せざるを 得ないような資料を揃えてくる。あなたはこちらが一生懸命認可してあげようと努力しても 認可が出せないような資料しか持ってこない。」と怒られたそうです。
昔の損保会社は釣りがさかんでほとんど全社が参加するキス釣り大会が毎年開催されていました。 この大会に大蔵省のお役人が混じっていたかどうかはわかりませんが、某中堅損保会社の釣り部には 後々某都銀を潰した鬼の検査官と呼ばれることになる方が所属していました。 TBS系テレビドラマ「半沢直樹」に出てくる黒崎検査官のモデルとも言われる方ですが、 本人はオネエではありません。威張り散らしたりせず、いたって実直な方でした。 緻密な証拠固めで都市銀行の不良債権をあぶりだしたのですが、その緻密さは釣りでも同じでした。 鯵釣りにご一緒したことがありますが、普通なら釣り道具屋で買う鯵釣りの道具を自作していました。 高温で鉛を溶かして型に流し込み、その中に針金を組み合わせた篭を鋳込むという職人技を使って 道具を自作していたのです。損保に限らないでしょうが、社員と大蔵省の方々との付き合いは多く、 かつて私の所属していた会社もテニスが盛んでしたが、当時の保険課長がこの会社のテニスコートによく来ていました。
ISPとはInternational School of Pacific(太平洋保険学校)の略でアメリカの学校の夏休みを利用し、 寄宿舎に保険会社の社員を合宿させて英語で保険の勉強をさせる短期留学制度でした。 大手会社では学力で社員を選抜して勉強に行かせたので、勉強が終わればすぐに帰国したのですが、 中小会社ではそもそも社員に高いレベルの知識など期待していませんし、そもそも英語ができる 社員が少ないので、営業成績を上げた社員のごほうびという面が強く、帰国後もまともなレポート提出 も要求されませんでした。それどころか合宿終了後に観光旅行を付け加えるケースが多かったのです。 この制度でも保険会社は大蔵省の担当官を招待していました。そして研修旅行を通じて社員が 担当官と良い人的関係を築いてくることを期待していたのです。
営業で好成績を達成してISPに選抜された中堅社の課長代理は守備よく担当官と信頼関係を築くことに 成功したのでした。今は知りませんがそのころ公務員が持つ公用パスポートは通常のパスポートと違い、 ほとんど検査なしに税関を通過できました。この頃はまだポルノ解禁前の時代でヌード写真などは すべて税関の検査で没収されていたのです。課長代理は公用パスポートを持つ担当官に頼み込んで アメリカで仕入れたあやしいビデオ類をノーチェックで持ち込むことに成功しました。 そして会社が持つ接待用施設を使って鑑賞会を開催したのでした。 ISPは現在は行われていないと思いますが、東南アジアの国から研修生を受け入れるISJ (International School of Japan)は行われていて、日本の損保会社の社員が講師となって 日本の保険制度の講習をしています。ISJの経験者は母国で保険会社の経営者や 政府高官など重要な役職についています。
各社にMOF担といわれる大蔵省のお役人とのパイプ役がいたことは前述しましたが、中堅某社のMOF担も 大蔵省の方たちとは親しい関係で一緒にスキーに行くほどでした。スキーに行くとき会社の部下の若者は 誘えば二つ返事でついていきますが、男だけでは花がありません。しかし女子社員は男と違って上司が 言ったからといって簡単にはついてきませんし、強引に誘えばセクハラです。 大手会社のMOF担なら費用は使い放題なのですが、この会社はそんな費用は出さなかったのでMOF担は 女性陣の費用をすべて自腹で支払ったのでした。 大蔵省の方々の中にもモーグルをやるスポーツマンがいて昼は一緒にスキーをし、 夜は宴会で盛り上がり楽しいひとときを過ごしたのですが、突然夜中に電話が入りました。 ちょうど国会の会期中で大蔵省関係の質問が出て本庁からの出勤命令がはいりそのままその方は スキー場のホテルから役所に直行しました。翌日は単なる社員旅行になってしまいました。 実にすまじきものは宮仕えです。
某中堅損保会社に業界でも有名なやり手の課長がいて、あるとき大蔵省で夜遅くまで折衝をしていたのですが、 ようやく話が終わって帰るときにお互いに疲れたことだし、その日は寒い夜だったので帰りに一杯やっていこう ということになりました。そして担当官と一緒に大蔵省の建物を出ると同じ会社の社員も大蔵省から 帰るところだったのです。 課長は「やあ偶然だね。これから飲みにいくんだが君らも一緒にどうだい。」と声をかけ そのまま一緒に飲みにいくことになり、それが縁で担当官とも面識ができたのです。 じつはこの社員達は用事で大蔵省に来たのではなく課長の命令で寒い中を夜遅くまで 外で待っていたのでした。
この会社のすぐ近くには神宮球場があり夏になると花火大会があるのですが、 その会社の屋上からはその花火がよく見えました。課長は花火大会の日は業界関係者を 花火に招待するのですが、もちろん大蔵省関係者は主賓です。損保各社の担当者は花火大会に 呼ばれたいのでこの課長の機嫌を損ねないよう気を使っていたそうです。 でもその会社は2001年の9.11同時多発テロの影響で破綻してしまいました。収益を求めてリスクを 取りすぎていたのです。1990年代の終わりには多くの中堅生命保険会社が破綻しましたが、こちらは 資産運用の失敗によるもので、リスクの違いはありますがやはりリスクの取りすぎです。 破綻原因となるリスクの違いから生保の衰弱死(資産運用の失敗でジリ貧になる)、損保の突然死 (巨大災害で破綻する)といわれます。
現在の保険会社が火災保険で支払う保険金の総額は火災よりも台風などの自然災害で
支払う損害のほうが大きくなっています。もともと火災保険は火災損害に備えた保険だったのですが、
これに自然災害による支払いを加えるようになったのはFFチーム
と呼ばれる損保協会に設置されたタスクフォースの働きによるものです。
FFチームの課題その1
以前は火災保険の料率が変更になると長期一括払の火災保険の保険料を追徴・返戻していたのですが、
それをしないように改定したのもこのFFチームの仕事でした。
FFチームの課題その2
外国会社の日本支店に赴任してきている外国人経営者や管理職はフリンジベネフィットと呼ばれる
特典があります。高級住宅、秘書、車、ゴルフ場や高級クラブの会員券などです。
それでもセコい外国人は会社の経費で飲み食いし、さらには愛人の手当を社員に採用することで
給与として支払ったりします。
ある外国会社の日本法人の外国人社長は自宅の冷蔵庫が空になる度に自宅で業務と称してパーティーを開催して経費で
冷蔵庫をいっぱいにしたそうで、日本人スタッフは兼ねてから苦々しく思っていたのですが、
あるときアメリカンクラブの精算書に入っていたスパゲッティの代金を経理部長が差し戻しました。
アメリカンクラブにはプールやフィットネスなどの設備があり、それを利用する権利はあるのですが、
経理部長が会社の規定を精査すると個人的な飲食の経費は使えないことになっていたのです。
経理部長は社長にスパゲティの代金を払い戻すように要求したのですが、社長は怒ってCFOに精算書の
サインをさせようとしました。
ところがCFOも規定は曲げられないとしてサインを拒否し結局社長はスパゲティ代金を戻し入れました。
外国会社はたとえ社長でも自分の費用は自分では決済できないのです。
日本の企業だと決済どころかセクハラやらパワハラやらのコンプライアンスは社員が守るべきもので、
上司や経営者には適用されないと思っているコンプライアンス部長が多いと思います。