FFチームの課題その2


 FFチームに与えられた課題は保険料の低下を喰い止めるだけではなく、長期一括払火災保険の保険料の追徴・返戻をなくしてしまう という改定もありました。

 保険会社は保険金支払を検証して、その結果により保険料を上げたり下げたりの改定を行っていました。 そうして適正な保険料を維持していたのですが、長期一時払火災保険の場合は保険料が変更になると 翌年度分以降の保険料の追徴または返戻を行っていました。これは年払保険料に合わせて一括で もらっている保険料の調整をするものでした。ところが保険料の追徴・返戻が発生すると代理店は 手数料の調整となるため、特に返戻の場合は販売のときに受け取った手数料の一部を返さなくてはなりませんでした。

 代理店は保険販売の対価として手数料を受け取っているわけで、その後の保険料の変更に責任はありません。 その頃火災保険の保険料は下がり続けていましたから代理店からはなんとかしてほしいという要望があり、 保険会社も追徴・返戻をしなくていいいような改定をするべく大蔵省に交渉にいきました。 この交渉もFFチームのメンバーが行ったのですが、最初に話を聞いた担当官は「いま話した内容を 書いて首から下げて省内を一周して来い、誰も笑わなかったらそれから話を聞いてやる」といった そうでとても交渉などできなかったそうです。

 ところが強力な政治力を持つ代理店の団体が政治家に働きかけた結果、大蔵省が話を聞いてくれることになりました。 最終的には将来の値下がりを予め保険料に織り込んだ保険を売るということで決着しました。 将来の保険料の値下がりなどわかれば苦労しないのですが、結果ありきでそれらしい値を作り保険料を値引きして 追徴・返戻なしの保険を作りました。

 具体的には火災保険の長期係数(年払保険の保険料から長期保険の一時払保険料を計算するための係数)に 将来の保険料引き下げファンドを織り込んたのです。しかしその前の改定で火災保険は自然災害を担保 するようになっていたため、その後自然災害が増加すると引き下げどころか火災保険は値上げを繰り返すようになり、 損保各社は長期保険の販売を中止する方向に動くようになりました。

 同様に高景気で金利の高い時代に開発された介護保険や年金傷害保険は高い予定利率を持つ長期保険であり、 その後低金利が続いても予定利率の変更はできないため逆ザヤとなり保険会社を苦しめ続けました。 これらの保険の開発時も高金利は長くは続かないと警鐘を鳴らしたアクチュアリー(後に保険会社をやめて 大学教授になりました)もいたのですが、経営陣は全く気にかけませんでした。 高金利でしかも長期の商品は保険会社にとってリスクが大きいことは自明ですが、 経営陣にとっては今期の決算が優先であり、商品開発担当者の間でも金利下落は先の話で、 そのころは自分たちはもう会社にいないから関係ないという話がされていました。 アクチュアリーが有効に機能している欧米ではこのような馬鹿げた話はあまり聞きませんが、 日本では保険料は理論ではなく社内政治で決められていたのです。 最近はリスク理論が日本にも浸透していて、さらにIFRSが導入されるようになれば将来のリスクも 決算で評価されるようになりますから今後はこのようなことは減ると思います。