通常金融機関にお金を預けたり借りたりすると利子が付きます。
しかし、マイナス金利という状態が起きるとお金を貸した人はさらに利息を支払い、
借りた人は利息がもらえるという異常な状態が発生します。
一般のお金の貸し借りではマイナスの金利などありえないのですが、金融の世界では発生することがあります。
アベノミクスで日銀が大量に国債を買い込んでいるときにこれが発生しました。
国債の流通金利がマイナスとなり、これを参照している保険会社の責任準備金が増大したのです。
保険会社は決算のときに将来の保険金支払いに備えて責任準備金を積立てますが、この計算に国債の利回りを
使用するルールとなっているのでマイナス金利で責任準備金の計算をすることになったのです。
通常なら将来支払う保険金は現在の資産を支払い時まで債券などで資産運用して支払うので現在積み立てる
責任準備金は将来の支払額より少なくていいはずですが、マイナス金利となったので将来の支払額より多く
積立なくてはならなくなりました。
積立額が大きくなればそれだけ利益が減るので、これに異を唱えた保険会社の役員がいたのです。
資産運用してマイナスになるなら運用せずに持っていれば損をすることはないので将来の支払いより多く
積み立てる必要はないと主張したのです。
一般人ならこの考え方は当然といえますが、金融機関で働く人なら普通はそう考えません。
金融庁からも当然マイナス金利で計算するように指示がありましたが、証券会社の子会社である保険会社では
証券会社出身の役員がマイナス金利適用の原理が理解できず責任準備金の計算にマイナス金利を適用しないように
保険計理人に要求しました。
保険計理人は金融庁の指示でもあり、責任準備金の収支分析としてはマイナス金利を適用することが
正しいことを説明したのですが、役員は納得できず金融庁に交渉に行きました。
金融庁はあきれたはずで、「ちゃんと勉強して来い」と言いたかったでしょうが、
そこは大人の対応で「これは保険業界全体の問題だから業界で決めて代表を通じて提案するように」と回答しました。
そこで役員は保険業界のリーダー会社に出向いたのです。その会社も大迷惑だったと思いますが、
役員をなんとか説得してマイナス金利適用を納得(多分納得はしていなかったが業界代表会社には逆えない)
させたのです。
後日、リーダー会社に聞いた話では金融庁から電話があり、そちらの業界に訳のわからないことをいう会社が
あるから、業界の責任でなんとかするように言われたそうです。
マイナス金利での運用はおかしいという役員の主張は一見もっともですが、これは実際に資産を運用するわけではなく、
責任準備金が十分かどうかの検証をするのでマイナス金利で計算するほうが正しいのです。
その理由は市場金利と債券の価格の関係にあります。
資産運用をしている人なら誰でも知っていることですが、市場金利と債券価格は逆の動きをします。
市場金利が下がっているときは債券価格は上昇しており、主に債券で資産運用をしている保険会社の
資産が過大に評価されているのです。
したがって資産を時価評価している保険会社は金利も対応させてマイナスを適用するべきなのです。
そうでないと逆に金利が上昇したときには債券が値下がりして資産が足りなくなってしまうのです。
このような原理で責任準備金の検証ルールが定められているのですが、金融の専門家であるはずの
保険会社の役員がそれを理解できなかったというお話でした。