損害保険とは偶然の事故や災害により財物にかかる損害あるいは必要になる経費を支払う契約です。
したがっていわゆる焼け太りは許されませんが、損害を回復できるだけの支払いは必要です。
しかし保険金額をその損害の価格いっぱいまでに設定していない限り損害の全額は支払われません。
契約した保険金額がその損害の最大値に満たない場合は一部保険といわれて、保険金もその割合で
支払われることになり損害額全部は受け取れません。家屋などの財物は経年劣化によりその価値は
下がっていきますが、この価値を保険金額とすると当然再建費用には足りないため、再建費用を
保険金額として設定する必要があります。
このためには価額協定という特約をつけて再調達価額(その物の再取得費用、家屋なら再建費用)を
設定し、損害額の全部が支払われるようにできるのですが、もしインフレで将来の再調達価額が協定した
価額を上回ってしまうと一部保険になってしまいます。結局毎年再調達価額を見直して常に満額が
支払われるようにするしかありません。したがって長期保険はこの観点からは勧められません。
一般的に長期保険は保険料が予定利率で割り引かれているため通常の年契約より保険料が安くなります。
ただ長期契約をしてしまうと保険金額が固定されてしまうため前述のようなインフレ問題が出てきます。
長期保険の場合は将来の保険料は予定利率で割り引かれて計算されますが、インフレ率を見込んで保険料
を計算しているものはないのでインフレに対しては無力です。
介護保険など事故が起きれば長期の保険金支払いになる場合でも、支払備金(事故が起きたときに保険会社が
積む将来の保険金支払いに備えた積立金)の計算にはインフレを入れますが、
保険料の計算ではインフレを考慮しません。それは保険金額が支払いの限度となるためインフレが起きても
保険金額以上の支払いにはならず、それに必要なファンドを保険料で考慮する必要がないからです。
ただ損害をてん補するという保険契約の本来の使命からすると、将来的にインフレが起きた場合は保険金額を
引き上げて支払うのが理想的です。そのためには保険料にもインフレ率を織り込む必要があります。
長期保険では運用利回りで将来の保険料を割り引いて計算しますが、それと同時にインフレ率で将来の支払額を
予測することも必要になってくると思います。これは生命保険も同様でインフレが起きれば将来の自身の医療費用や
子供に残す生活費も上昇するので、やはりインフレ率を織り込むということは必要になってくると思います。
過去に高い予定利率を設定して後で運用利回りが下がり逆ザヤに苦しんでいる保険会社がありますが、
同時にインフレ率を設定していればこのようなことも避けられたわけです。保険期間が長くなると予定利率も
インフレ率も予測するのは困難になりますが、このような場合でも予定利率とインフレ率はある程度
同期して動きますので、相殺されてリスク軽減の効果も期待できます。