では、本当に契約者にとって一番有利な保険とはどんな保険なのであろうか。 生命保険でいえば、自分が死んだときに周囲に迷惑がかからない程度の財産があるならば、生命保険は必要ないのである。 火災、自動車事故、死亡などが発生したときに発生する費用が高額で支払えない、または支払いたくないときには保険をかけるべきで、 逆にその支払いを自分でできるなら保険料を支払ってまで保険をかける必要はない、つまり金持ちには保険はいらないのである。
普通の人(保険の素人)はよく発生しがちなリスクに保険をかけようとする。そしてめったに起きない事故については保険をかけない傾向がある。 だから実際に地震の被害を目の当たりにするまでは地震保険を買う人は少ないし(保険料が高いことも売れない原因ではある)、 自動車事故はよく起きるので、自動車保険はよく売れる。 実際、大地震の直後は地震保険がよく売れるが、これは逆でしばらくは次の周期まで地震が来る確率は減っているのである。 保険のつけ方としては支払い能力があるなら頻繁に起きるリスクには保険をかけず、たまにしか起きないが起きたら大損害になるようなものに 保険をつけるのが正解なのである。
また、保険の特約(普通約款に追加する約款)には免責額といって事故が発生してもある一定額以下の損害額は保険金を支払わないとか、 損害額から一定額を差し引いた保険金を支払うという特約がある。 これも損害を全額払ってもらえないので契約者には評判が悪いが、実際にはこれは契約者にとって有利な特約なのである。 何故かというと、実際に支払う保険料は損害の支払に充てる部分(純保険料)と会社の運営に必要な経費(付加保険料)からできており、 付加保険料は純保険料の一定割合と決められていることが多いので、純保険料が高いほど付加保険料も高く保険会社は儲かるからで、 逆に保険金の支払いが少なく純保険料が低い契約は付加保険料も低くトータルではお買い得なのです。
伝統的な保険料の計算(現在でも使われている)では純保険料は主に損害の期待値(平均値)から計算されており、 損害の変動部分(いわゆる統計上の分散=リスクの部分)が料率に反映されていない。 安全割り増しなどの名目でリスクやデータの誤差が考慮されている場合もあるが、平均値をそのまま使う場合も多く、 この場合は発生頻度の低いリスクの料率は低めに計算されるのである。極端なことをいえば、毎年1回必ず事故が発生するとすれば、それはリスクではなく単なる費用なのであるから、 保険をつけずに自分で支払ったほうが安くつくのである。 なぜなら、その保険をつければ保険料にはそのリスクの金額に保険会社の運営費用が加算されているからである。
同様に比較的多く発生する事故ならば保険をつけずに自前で損害を支払ったほうが結果的に出費は低くなる。また、
損害は発生するが大部分は小額損害でたまに大損害が発生するようなリスクなら、その小額損害部分は免責としておけば、その分保険料が安くなる。
だから保険をつけるのはその損害が起きたときに自分では支払いきれないような大きな金額になるものだけに限れば、
事故による支払の負担は増えても保険料は下がるのでトータルでは節約になるのである。
すなわち、一般的に人気のない小額損害免責特約はじつは契約者にとって有利な特約なのである。
自分のかかえるリスクの最大損害額をよく考えて、自分の資産で支払える範囲はすべて自分でリスクを保有し、 保有しきれない部分だけを保険につけるのが契約者にとって一番合理的な保険の付け方なのである。