昔から銀行で働く人は銀行員と呼ばれ社会的にも信用がありますが、 証券会社や保険会社で働く人は株屋とか保険屋と呼ばれ世間ではあまり信用してはもらえませんでした。 その理由は銀行が預金、貸付、保証、決済など金融機関としての重要性が認められてきたのに対して、 株は切った張ったのイメージがあり大口顧客への損失補てんやインサイダー取引などの悪いイメージがついてまわるし、 生命保険の外務員はGNP(義理、人情、プレゼント)で契約をとり、 大量に採用された外務員は親戚知人の契約を取り終わるとほとんどがやめてしまうというイメージが強かったからだと思います。 損害保険が知られるようになったのは自動車が普及するようになってからで、 それ以前の火災保険については家が燃えても柱1本でも残っていれば保険会社は支払わないなどと言われており、 あまりいいイメージを持たれていませんでした。
そんな業界でしたから私が損害保険に就職すると知った年配の方々からは 「保険屋になるのか?どうせなら銀行員になればいいのに」といわれたものです。 実際には損害保険会社は地震保険や自動車損害賠償責任保険(自賠責保険、強制保険とも呼ばれます)を販売することにより、 国の自動車行政の一端を担っていますし、介護保険や年金を販売して国民の高齢化や福祉対策にも寄与しています。 地震保険や自賠責保険は国民の安全を守るために国の政策により作られた保険で、 すべての保険会社は同じ保険料で同じ商品を販売し、引受拒否もできません。 東日本大震災では地震保険から莫大な保険金が支払われ復興に役立ちましたし、 近年では火災保険で台風や洪水などの自然災害被害なども支払うようになっています。 ほとんどの損害保険会社は国民の安全を守ることを経営理念に掲げており、金融機関として国の政策に協力しています。
近年は金融自由化・国際化により保険監督行政も国際基準に従うようになり、 IAIS(保険監督者国際機構)のメンバーでもある金融庁は日本の保険会社に「保険屋から金融機関への脱皮」を求めています。 具体的には保険会社が保険を販売するだけではなく、保険引受や資産運用に伴うリスクをコントロールして経営の健全性を高めることです。 このため最近の金融検査では事務的なミスの摘発よりもむしろ経営者の取り組み姿勢に重点が置かれ、 経営の健全性、透明性、リスク管理体制の実態がチェックされるようになってきています。 近年では国債会計基準の導入に備えたフィールドテストが毎年実施され、本格的なリスクコントロール体制が求められています。
日本では保険会社やその社員は保険を売り歩く商売人という印象がありますが、欧米では保険会社は高度な専門知識を持つ技術集団であり、 その社員はCPCUなどの専門資格を持つエリート集団です。従って社員には高い資質が求められ、保険の引受を行うアンダーライターは レベルの高い仕事とされています。保険というのは事故がなければ何も残りませんが、実際に事故が発生して保険金やサポートサービスを 受けたときに真価が問われます。契約者は保険料の安さより事故のときの的確なサービスを求めるようになると思います。 そうなれば人々は保険を保険屋から買うのではなく保険会社からリスクコンサルティングのサービスを買うことになります。 これは対面販売もネット販売でも同じことで、人々が自分のリスクについてちゃんと考えるようになれば、 それに対応できる保険会社を選ぶようになるでしょう。