アンダーライター

 アンダーライターとは保険の引き受けを職業とする人のことです。 一般消費者を対象とした自動車保険や火災保険では、過去によっぽどひどい事故を起こしていないかぎり保険の引き受けを断られることはありません。 したがって一般人がアンダーライターと接触する機会はほとんどないと思います。

 しかし、大規模工場や特殊な作業をする工場などはその危険を熟知した専門のアンダーライターが保険引き受けの可否、 契約につける条件、適用する保険料などを決定します。したがって、その会社が儲かるか損をするかはアンダーライターの能力にかかっています。

 とはいっても保険は博打ではありませんから、ある1件の契約が事故を起こすかどうかを判断して契約をするわけではありません。 もし、それができるとすれば、それはアンダーライターの仕事ではなく占い師の領分です。 アンダーライターは事故が起きるかどうかではなく、事故が起きる確率が高いか低いか、 事故が起きた場合の損害がどのくらいになるかを判断して契約の条件を決定します。

 海外ではアンダーライターは引受リスクに関する専門知識と高い見識、倫理観から社会的に高い評価を受けています。 CPCU(Chartered Property and Casualty Underwriter:公認損害保険士)という資格があり、この資格の保持者は高い待遇を保証されます。 最近は日本でもこの資格を取れるようになっているようです。

 世界で最初の株式会社組織の保険会社であることを自負する歴史の古い保険会社に勤めていた人から その会社の社史にアンダーライターのレベルの高さとそのアンダライター魂を示すエピソードが載っていたと聞いたことがあります。

 その会社はアメリカの会社ですが、ひとつはタイタニック号が沈没したときで、タイタニック号に多額の保険が掛けられていたため、 その一部を再保険で引受けていたその会社もかなりの保険金の支払いとなりました。 ふつうならそんな保険を引き受けたアンダーライターは「バカヤロー」といわれるのですが、 そのとき保険を引き受けたアンダーライターに対して社長が「こんな良質なリスクをなぜもっとたくさん引き受けなかったか」と叱責したという話です。 これは前にも述べたように、保険は博打や占いではないので、引き受けるときの情報から判断して良質なリスクであれば、 結果として事故が起きてもそれはアンダーライターの責任ではないということが徹底されているということです。

 もうひとつはスペースシャトルの話で、スペースシャトルが何十年も前に打ち上げられて故障した衛星を宇宙から回収して帰ってきたとき、 その会社のアンダーライターが保存されていた古い契約書を調べてその衛星にはかつて保険がつけられており、 故障した時に保険金を支払っているので、その衛星の所有権は自社にあると主張したというのです。 (通常、保険金を支払った場合には代位といって保険の目的の所有権は保険会社に移ることになっています)

 しかし別のアンダーライターはやはり古い保険金支払時の書類をチェックし、 保険金は支払われているが代位権を放棄する手続きがされているため自社に所有権はないと報告したのです。

 何十年も前の契約の代位権行使にこだわるアンダーライター根性もたいしたものですが、 さらに壊れた衛星がどこかに落下して発生するかもしれない賠償責任のことを考えて代位権放棄の手続きがとられていたことは アンダーライターのレベルの高さを物語っています。 アンダーライターはまさにリスクをコントロールする仕事をしており、そのことに誇りを持っているのです。

 残念ながら日本では保険会社の地位が比較的高くなったのは自動車保険が普及してからの話で、 それ以前は「犬と保険屋は正面玄関から入るな」という状態でした。 もちろん昔から良心的な営業社員は良質の契約(事故発生が少ない契約)を獲得するべく努力したのですが、 事故発生率の低い物件は競争原理が働いて保険料が安くなりますから、収益を出すことができません。 適正なリスク量を引き受けてそれに見合う収益を出すことがリスクコントロールなのです。 従来はこのことが理解されず、やみくもに保険料を稼ぐことに重点がおかれていたため 金融庁からも「日本の損保会社は保険を引き受ける会社ではなく保険を販売するだけの会社である」といわれる始末でした。 現在は日本の損保会社にも精緻なリスクコントロールが導入されるようになっており、保険屋から金融機関に脱皮することが求められています。 そのためにはアクチュアリーが自社の資本量や引受方針から引受可能なリスク量を算出して、 そのリスク量に見合う契約をアンダーライターが引き受けるという基本が徹底されなければなりません。