ハチロク準備金

 ハチロク準備金とは旧保険業法の86条に規定された準備金をいいました。旧保険業法の86条では保険会社が保有する
資産の売買から生じた損益(キャピタルゲインまたはキャピタルロス)はそのまま準備金に入れて保険会社の収支(損益計算書)
には反映させないことが定められていました。これは保険会社が収益を上げるためにリスクの高い運用に走ることを
防ぐための規定でした。つまり値動きの大きい株を買って儲けを出してもそれはすべて準備金に積まなくてはならず、
利益として使うことはできない仕組みでした。
 ところが資産運用で利益を出したい保険会社はこの規定の裏をかくような方法を編み出したのです。それは高い配当を
出す代わりに償還金額が低くトータルの利回りとしては決して有利でも何でもない債権を利用したのです。
これだと受け取り配当は売買益ではありませんから準備金に積む必要がなく、満期になって損が出ても準備金を
取り崩すだけで会計上の損は発生しません。これをキャピタルゲインのインカム化と称していました。
これはいわゆるタコ足配当(タコが自分の足を食べること)で見かけ上の収益を上げるだけで財務の健全性を損なうものです。
このような目的に使う債権は市場ではビックリボンドと呼ばれたり、日本人しか買わないのでスシボンド(寿司は日本食)とか
自殺行為なのでハラキリボンドなどと呼ばれました。
 このように有名無実となってしまった86条はその後の改正で廃止されました。同様に債権の評価差額も87条により
準備金に積むことになっていましたが、これも廃止されました。オーナー経営者であればこんなばかげたことをするはずは
ありませんが、サラリーマン経営者は自分のいる間だけ収益を上げればいいのでこのような手段に走るのです。
株主がしっかりしていてガバナンスの効いた会社であれば長期で会社の収益を見るのでこのようなことは起こりません。
現在では保険会社の健全性を経済価値ソルベンシーという指標を使って評価することが世界の潮流になってきています。