パラメトリック保険

 パラメトリック保険とは台風の風速や地震の強度など設定した指標(パラメータ)が一定値に達すると保険金が支払われる保険である。 保険業法に基づく保険商品ではあるがパラメータが約定値に達すると損害調査なしに支払われるので実質上デリバティブと変わらない。 両者は保険として保険会社が販売するか、金融商品として保険会社以外の金融機関でも販売できるかの差しかない。

 ではパラメトリック保険とデリバディブは何が違うかというとパラメトリック保険ではパラメータと損害発生の間に相当強い相関が必要だということである。 損害保険とは損害をてん補する契約であるからパラメータが支払値に達することと損害の発生が同一視できる必要がある。 この損害額とパラメータの相関が弱いとベイシスリスクが大きくなり損害保険の定義からはずれていくことになる。 つまりパラメトリック保険は限りなくデリバティブに近い保険ということができる。

 仮にデリバティブとパラメトリック保険のパラメータが同じであればリスクが同じであるから両者の純保険料は同一となる。 問題はベイシスリスクであり、損害額とデリバティブの受取金の相関係数がどのくらい1に近ければ保険とみなされるかが問題となる。 この保険とデリバティブの関係はさらにデリバティブと公営ギャンブルさらに賭博との関係へと続いている。

 デリバティブは保険事故による損害てん補を資産運用リスクなど保険事故以外のリスクヘッジに拡張したもので、 このリスクヘッジがなくなるとギャンブルになってしまう。 これを防ぐためにデリバティブを扱う保険会社はデリバティブの販売についてもリスクヘッジを前提として販売している。 ただし金融商品としてのオプションなどのデリバティブは必ずしもリスクヘッジだけではなく逆にリスクテイクに使うこともできる。 ではこれらの金融商品はギャンブルと何が違うのであろうか。競馬で儲けることと株や債券で儲けることに根本的な違いはあるのだろうか。

 競馬・競輪・競艇、宝くじは予想が外れ掛け金を失うというリスクをとって収益を目指すことは 株や債券保有あるいはデリバティブによる資産運用と同じで同じで馬の順位を当てるか株や為替や金利の値動きを当てるかの差しかない。 事実、競馬による資産運用のハズレ馬券を必要経費と認めた判例もある。 敢えていえば賭博が法律で禁じられているのは、射幸心をあおるだけで世の中に何の貢献もしない非生産的な行為だからであろう。 株や債券は少なくとも事業をしている人に資金を提供して経済活動を支えることになるが、賭けマージャンにそれはない。 競馬や競輪など公営ギャンブルが認められているのは収益金が地方自治体の収益になるし、宝くじも同様であろう。

 そうであれば公営ギャンブル以外の賭博も犯罪として取締るのではなく課税すればいいだけのことではないのか。 犯罪とは本来倫理的に許されない行為であり、それゆえ刑法に基づき取り締まられ処罰されるのである。 刑法に定める犯罪とされることを公共団体主催でやるならば犯罪でなくなるというのは説明がつきにくい。 このことは批判は犯罪ではないが独裁国家で国家や権力者の批判をしたりすることが犯罪となる構造によく似ている。 犯罪とは本来だれが行っても倫理的に許されず処罰に値する行為であるべきである。 賭けマージャンやサイコロ賭博は犯罪で競輪・競馬・宝くじは合法というのは倫理的にはなかなか説明しずらい。 それらも賭博として取り締まらずに、収益を挙げたら課税することにすればだれでも賭博を開業できるようになり、それにより税収も増える。 賭博が合法となれば闇世界で行う必要がなくなり、その結果反社会団体が胴元になることもなくなる。

 これは酒の醸造などにも言えることだが、行為自体を犯罪として取り締まれば、その行為自体が倫理的に悪いこととなり、 それを事業としている酒造会社や公共団体がギャンブルを行っている場合に説明がつかなくなる。 酒造にしても宗教上飲酒を禁じる国を除けば一般家庭で消費する酒の醸造は日本以外では広く認められている。 カジノにしても同様で最近はこれを日本でやろうという計画も進んでいる。 賭博や酒の密造を犯罪として取り締まるのではなく、事業として行った場合に納税がなければ脱税で取り締まればよいのである。 このようにすれば保険、パラメトリック保険、デリバティブ、公営ギャンブル、賭博の関係が善悪の感情抜きに 連続性を持って説明できるようになる。

 保険の自由化以前には「保険料即収の原則」、「保険料不可分の原則」などが普遍的真理のごとく保険の教科書に載っていた。 現在は保険料払込猶予や分割払いなどが一般的となりこれらの原則はどこかに消えてしまった。 現在は保険は損失補てんが目的なので超過保険は無効とされているが、損失があった場合は補填、収益を得た場合には課税とすれば 超過保険も損失補てんと投資の性質を兼ね備えるようになる。もちろんその場合には販売する側には説明責任が生じる。

 将来的には保険、デイバティブ、ギャンブルはリスクヘッジあるいはリスクテイク両方を備えた手段として その境界は薄れていき連続的に定義できるようになるだろう。損失なら補填、収益なら課税とすればこれらの間に本質的な違いはないからである。 現在でも相互扶助以外に親睦の目的を持つ沖縄の模合や無尽講、頼母子講などの制度は公に認められているのであるから、 親睦目的の賭けマージャンなどは犯罪とする必要はなく、額が大きかったり事業規模になったら課税すればいいことである。 法改正などの制度改定をして実施するにはいろいろ困難があると思われるが、パラメトリック保険などが出てくると この動きは加速すると思われる。