支払備金

 保険事故が発生すると保険金の支払いが起こりますが、通常事故が発生してから損害額が確定し、保険金支払いが終了するまでは時間がかかります。 特に交通事故などで裁判になったりすると損害賠償金額が確定するまでに10年以上かかる場合もあります。保険会社では事故が発生するとすぐに調査 を開始して支払うべき保険金の金額を予想し、それの金額を未払保険金として計上します。そして保険金が支払われるとその金額が未払保険金から支 払保険金に振り替えられます。

 未払保険金は予測で積み立てられているので、事故調査や裁判が進み支払い金額が明らかになるにつれ増えたり減ったりします。そして決算のときには その時点の未払保険金は支払備金として負債項目に計上されます。支払備金は保険金の支払いに備えて積み立てるという点では責任準備金と似ていますが、 責任準備金は事故発生の可能性(すなわちリスク)に対して積立てるのに対して、支払備金は既に発生してしまった事故(ただし支払い金額は確定していない) に対して積立てるところが違います。

 支払備金は個別の事故の実態から支払予想額を見積もって積立てる普通備金(CASE RESERVE)と、過去の保険金支払データから将来の支払額を統計的に算出 する既発生未報告備金(IBNR)に分かれます。

 支払備金は将来の支払いの準備ですから経営的には大目につみたてるほうが健全なのですが、税務上損金として扱われるためあまり多く積み立てると国税局の チェックが入ります。またタクシー会社や運送会社など多くの自動車を契約している場合(フリート契約といいます)では損害率により保険料が修正されるため、 正確さが要求されます。そこで支払備金の調整はもっぱら個人契約で行っているとある会社の実務担当者は話していました。

 決算の苦しい保険会社は支払備金を少なめに見積もったりすることがありますが、これをやると後で見積もり以上の支払いが発生し、さらにその影響でIBNRが 増加したりします。IBNRは一部を除き有税なので結局IBNRを多く積むことになり、それに加えて税金も払うハメになります。

 このように保険会社の決算は責任準備金や支払備金などの会計や税務が複雑なので一般の経理をやっていた人からみるとわけがわからないと言われます。 一般的に保険会社が儲かっているのかどうかや健全な経営をしているかどうかは、非常にわかりにくいため、最近ではディスクロージャー誌に ソルベンシーマージン比率を開示したり、生命保険会社では会社の価値を知る基準となるエンベッデッドバリューを載せたりしています。