保険というのは保険業法により金融庁から事業免許を得て行う認可事業です。
免許制になっている事業というのは、
電力、ガス、運送、金融など国民生活に与える影響が大きく、公共性の高い事業であるということです。
損害保険は事故の損害を填補する契約ですから、たとえば台風で大勢の人が家を失ったときに保険会社が破綻して
保険金を支払うことができなければ多くの国民が路頭に迷うことになり、
その人たちを救うために国は税金を投入せざるを得なくなり、
経済が影響を受けることになります。
そのために国は常に保険会社の財政の健全性をチェックし、必要があれば指導や処分を行い、
それでも破綻したら最終的には保険契約者保護機構に移転することで保険契約を保護します。
国の金融行政を執行する機関が金融庁で、監督局や検査局が銀行、証券、保険など金融業界を指導監督しています。
金融庁は保険会社が販売する保険商品の健全性、責任準備金の十分性、契約者の利便性、契約者保護がなされているかどうかを常にチェックしています。
ただし、このチェックが厳しすぎると以前の「護送船団方式」に戻ってしまい、「箸の上げ下ろしにまで口を出す」といわれることになります。
そこで問題になるのはどこまで細かく指導するかということですが、これには保険契約が企業相手なのか一般消費者相手なのかがひとつの目安となります。
企業を相手とする場合、保険会社は企業の保険担当者と契約上の交渉をするわけですから、
両者ともに保険に関する十分な知識があるとみなし、どのような条件で契約がなされるかは当事者間の合意を尊重して、原則自由となります。
ところが一般消費者の場合は個々の契約は少額で、保険会社と対等に交渉できるだけの知識や経済的バックグラウンドはないので、
保険会社のいうとおりの条件で契約せざるを得ません。
このような場合に金融庁は保険契約の内容を十分に審査して、契約者に不利な条項がないかどうかをチェクします。
これを契約者保護といいます。
つまり金融庁は契約者の側に立って保険会社を指導監督するわけです。
ですから一般的には保険会社にとって金融庁は煙たい存在なのですが、ときには保険会社の助人になってくれることもあります。
日米保険協議で米国側が自国の保険会社の既得権益を守るために第三分野の自由化を遅らせるよう圧力をかけてきましたが、
このとき金融庁は日本の生損保を統率して対抗商品の開発を進め、第三分野の自由化を押し切ってしまいました。
さすがにこのときは普段煙たい金融庁が頼もしく見えました。
保険行政に限らず法律で定められた国による監督というのは強制力を伴うので従わざるを得ませんが、
じつはそれが国全体として必要だから強制しているわけです。
余談ですが、モーターボートで東京湾を走っていると、ときどき海上保安庁の巡視船に呼び止められ、免許のチェックをされたりします。
これも行政による監督でうっとうしいと思うのですが、巡視船の船長だったひとからロシアの巡視船に連行されそうになった漁船を
体をはって奪い返したという話を聞いたり、ニュースで海難救助を見たり、
テレビドラマの「海猿」を見たりするとやはり海上保安庁はカッコイイと思います。