約款

 保険を契約すると必ず約款というものを渡されますが、約款は保険特有のものではありません。 個々の契約者に約款を渡すのは保険くらいかもしれませんが、旅館やホテルの部屋には必ず宿泊約款が備え付けられており、 通常目にすることはありませんが電力会社には電力供給約款、鉄道やバスあるいは観光地のロ-プウェイやスキー場のリフトにも運送約款というものがあります。

 通常、契約は契約書を取り交わしますが、約款は不特定多数の人にサービスを提供する会社が契約書の代わりに そのサービスを受けるユーザーとの間で守るべき事項を記したものです。 そのサービスが公共性の高いものである場合は約款は監督官庁の認可、あるいは監督官庁への届出が必要となっており、 約款に違反したりすると営業停止や最悪の場合は営業免許取り消しなどの処分があります。 保険業も認可事業なので、保険約款も監督官庁に届出あるいは認可を得て営業しています。

 約款は契約書ですから、保険会社と契約者の両方がその規定を守らなくてはなりません。 保険会社は約款以外に契約規定というものを作っており、これは保険会社が守らなくてならない自主規制です。 自主規制である以上保険会社側はこの規定を守るべきですが、契約者に対抗できる規定ではありません。 しかし、保険会社の社員の中にも約款と契約規定の差を理解していない人がいたりします。 これ以外にも保険会社は金融庁の認可を得た事業方法書、保険法、保険業法、保険業法施行規則、独占禁止法、料率団体法、 金融庁告示など守らなくてならない規則が山ほどあるので、保険会社の社員(特に管理職)は勉強が大変です。

 昔の損害保険約款では多くの保険の始期は保険証券に記載された契約始期日の午後4時に保険責任が開始され、 満期日の午後4時に終了すると書かれていました。 これを「4時-4時約款」というのですが、これは昔保険会社の終業が午後4時だったので、 保険責任の開始および終了時刻を保険会社の終業時刻に合わせたものといわれています。 この終業時刻は改定されて現在はほとんどの会社が9時始業の午後5時終業ですが、私が就職した頃の損害保険会社はどこも終業が午後4時30分で、 始業は夏が9時、冬が9時30分という優雅な職場でした(たしか生命保険はもっと早い終業だったと思います)。 おまけにボーナスが年間3回あり、支給額は合計で本給の11ヶ月分ありました(現在はこんな会社はありません)。 保険の仕事というより、この条件に引かれて入社した人は結構多かったと思います。

 金融が自由化された現在では銀行も保険も昔のような優雅な職場ではありません。 競争やノルマがきつくノイローゼや自殺などの問題も起こっています。 就業規則では9時始業で午後5時終業となっていても、実際には午前8時から午後8時までなんてことがよくあります。 最近は2チャンネルと労基署のおかげで多くの会社で残業禁止令が徹底されていますが、 中にはわざわざタイムレコーダー(通常保険会社にはありません)を設置して人事担当役員が職場にやってきて タイムレコーダーを押して(退社したという証拠を作って)から残業するように指示したという会社もあるそうです。