ひとりは皆のために、皆はひとりのために。
これは映画や童話にもなっているデュマの小説「三銃士」の中の有名な言葉ですが、まさに保険の本質を表したことばでもあります。 つまり助け合いの精神を説いたものなのですが、日本に昔からある無尽講、頼母子講あるいは現在でも沖縄県で行われている 模合(もあい)なども相互扶助の意味では保険と同じような制度です。 これらは加入者からお金を集めて特定の人に給付するところは同じですが、 保険が模合や頼母子講などと違うのは、給付の原因が生命保険では人の生死、 損害保険では偶然の事故による損害のてん補に限られるということです。
保険の本質は大数の法則です。一人ひとりの持っている生死や損害などはその発生を予測することができませんが、 大勢集めるとそれらのリスクの発生は一定の確率に収まってくるため、全体でみると支払保険金は安定するのです。 従ってこの支払い保険金を保険の加入者すべてで負担すると安い保険料で事故が起きた人に保険金を支払えるのです。
保険と同じ制度で共済というのがありますが、これは仕組みは保険と同じなのですが一定の範囲の人間、 つまり同じ組織や自治体などに所属する者だけを対象とした制度であることが違います。 一定の範囲内でもごく限られた仲間内の加入者による保険行為は自由に行えますが、それ以外の保険行為には何らかの根拠法が必要で、 上記のような特定の仲間内の相互扶助以外の保険行為は保険、共済または小額短期保険として法律による監督を受けることとなります。 保険を監督するのは金融庁ですが、共済を監督するのはそれぞれの根拠法により農林水産省(農協共済)や厚生労働省(全労災)などの官庁 あるいは地方公共団体(県民共済)などとなります。 保険や共済を設立する場合には事業計画、約款、保険料、責任準備金など事業の基礎を定めた書類を監督官庁に提出して設立認可を受ける必要があります。 監督官庁はそれらの書類を審査して保険や共済が公共事業にふさわしい運営がなされるかどうかをチェックします。 すなわち公序良俗に反するような規定がないか、保険料水準は適正か、事業計画は健全かなどです。
以前は法律の隙間をついて認可なしで営業されていた共済があったのですが、 現在では規模が小さくても事実上の保険業を行う場合には小額短期保険会社として認可を受ける必要があります。 ただし、以前から営業をしていた無認可共済については経過措置により特定保険業者として営業を続けている場合もあります。
限られた仲間内だけで共済を行うなら事業にかかる経費がないので保険料は極めて安くなりますが、 規模が小さいので大数の法則が成立しない場合が多く、再保険を使うわけにもいかないので損害率を安定させることはかなり困難と思われます。 しかし、自家保険が理論的には一番安いコストでリスクを保有できるので、 保険制度が進化すれば小額免責などを使ってかなり自家保険に近いリスク管理を行うことも理論的には可能で、 将来は保険だけでなくさまざまなリスクヘッジ技術を駆使して個人へのリスク管理サービスを提供するようなリスクコンサルタントも出てくると思います。