BTL接続用位相反転回路の設計・製作

通常、出力10Wのアンプが2台あれば常識的には合計の出力は10+10=20で2倍の20Wになるはずです。
ところが、BTL(Bridged TransLess)という接続方法を使うと4倍の40Wになります。
BTL接続は2台のアンプのうち1台の出力をスピーカーのプラスに、もう1台の出力はスピーカーのマイナスに接続するもので、 駆動電圧が2倍になり出力は理論上4倍になるというものです。
電気回路では電流と電圧は比例するため、電圧が2倍になると電流も2倍になり、電力は電圧×電流なので2×2=4となります。
ただし同じ信号をスピーカーのプラスとマイナスに同時にかけると、 その差(つまりスピーカーにかかる電圧)はゼロとなってしまうので、2つの入力信号は正反対にする必要があります。
つまりBTL接続を行うには2つのアンプに正反対の信号を送ることが必要なのです。
この2つの正反対の信号を作り出す回路を作ってみようと思います。 この回路はトランジスタの2つの極(コレクタとエミッタ)に正反対の信号が出てくることを使えば実現でき、 動作を安定させるために帰還バイアス型の回路を使うと図のようになります。
BTL-phase-inverter
回路の構成はこれでいいとして、使う部品をどう決めたかを説明します。 コンデンサは周波数の高い信号ほどよく通過するので、これが小さいと低音が出にくいのですが、このくらいの回路だと4.7μFが一般的です。
あとはR1~R4までの値を求めればいいことになります。
まず接続するのは標準的なパワーアンプと考えると入力の入力感度は0db、 入力インピーダンスは600Ωですから最大出力のときの入力は0db(0.775V)となります。
なぜ0dbが0.775Vかというと、このとき流れる電流をA,電圧をVとおくと
0db=1mW=V×A=V×(V÷600Ω) → V=0.775
2つの出力は波形が上下対称(一方が山型なら他方は谷型)でなくてはなりませんから、R3とR4は同じ値となります。
そして、これらの抵抗にかかる電圧は電源電圧の1/3が理想的です。
なぜならR3とR4の両端にかかる電圧とトランジスタのコレクタ・エミッタ間のアイドル時電圧が等しいときに
もっとも大きい電圧振幅が得られ効率よく増幅ができるからです。

電源電圧は5Vですから、R3とR4にかかる電圧は5÷3=1.67Vとなります。 そしてR3とR4の抵抗値はそのまま出力インピーダンスになりますので、 本来は600Ωなのですが、ここは手持ちの部品で一番近い560Ωで代用します。
いいかげんなようですがこのような簡単な回路なら部品が多少違っても動作します。
トランジスタも手持ち部品の2SC1815Yを使います。
このトランジスタはhfe(直流電流増幅率)が200です。 ここまで決まると、残りの抵抗値を計算で求めることができます。
まず、hfe=200ですから、コレクタ電流を200分の1にしたものがベース電流です。 コレクタ電流はコレクタ電圧をコレクタ抵抗(R3)で割ったものですから
         1.67÷600=0.002783A=2.783mA
これよりベース電流は
       2.783mA÷200=0.01392mA=13.92μA

動作を安定させるためR1に流す電流はベース電流の10~20倍としますので、 R1に流れる電流をI1とするとI1は0.14~0.4mA程度です。
トランジスタのベースとエミッタの間の電圧は電流にかかわらず常に一定で0.7Vですから

ベース電圧:R2×I2=0.7+R4×(0.01392+2.784)=0.7+1.567=2.267V

電源電圧は5VなのでR1:R2=(5-2.267):2.267=2.733:2.267を満たし、 かつ電流が0.4mA程度流れればよいR1とR2のペアを決めればよいわけです。 手持ち部品の中から近いものを選ぶとR1=5.6KΩ,R2=4.7KΩとなります。
こうして決めた抵抗値は手持ち部品の中から近いものを選んだので、最初の設計とは流れる電流も電圧もずれてきているはずです。 そこで、実際にこの回路で電流がどう流れるかを検証します。

BTL位相反転回路の電流計算

抵抗値は以下のとおりとする
R1=5.6KΩ=5600Ω
R2=4.7KΩ=4700Ω
R3=R4=560Ω
R1,R2,R3,R4の抵抗に流れる電流をそれぞれI1,I2,I3,I4とする。 トランジスタの電流増幅(hfe)は200とする。 電源電圧は5Vとする。
キルホッフの法則より
R1・I1+R2・I2=5
(I1-I2)+I3=I4
R2・I2-R4・I4=0.7
電流増幅率より(I1-I2)×200=I3
上式のI1~I4を変数とする連立方程式を解くと
I1=0.491706
I2=0.477967
I3=2.747772
I4=2.761511
となる。

これよりこの回路のベース電流は
0.491706-0.477967=0.013739mA=13.7μA
コレクタ電流は2.75mAとなる。(アイドル電流)
ベース電圧は4.7×0.477967=2.25V
コレクタ電圧は5-0.56×2.747772=3.46V
エミッタ電圧は0.56×2.761511=1.55V
ベース電圧の変動はR4の電圧変動と同じでR4の電流変動はベース電流の(hfe+1=201)倍ありますから、 入力インピーダンス(交流抵抗)はR4(=出力インピーダンス)の201倍になります。
また出力電圧変動はR4の電圧変動なので、ベース電圧の変動に等しく、 電圧増幅率は1です。
BTLBOARD
実際に回路を組んでそれぞれの電圧を測ると上記に近いので回路は正常に動作しているといえます。
ここで入力に正弦波を加えコレクタとエミッタの電圧をオシロスコープで見ると 出力波形は入力と同じで、位相は逆になっていることが確認できました。
BTLTEST